『  この空の下 ― (1) ―  』 

 

 

 

 

 

 

新春 パロディ劇場 です。 苦手な方 お引き返しください。

え〜〜 サブタイトルは 『  Lovers in Verona  』

 

  

 

 

 ぱさり ・・・・  

 

ドアの内側に垂らされている絹の帳が ゆっくりと持ち上げられた。

 

「 姫さま? 美味しいイチジクをもってまいりました。

 氷室からもってきた氷の上に置きましたから ようく冷えておりますですよ 」

陽気な声とともに 横幅たっぷりの老女が入ってきた。

「 姫さま  フランソワーズさま? お昼寝ですか 」

 

  かったん かったん ちりん。  

 

「 ふう やれやれ・・・ 随分とゆっくりお休みのようですけど・・・

 姫さま? お目覚めくださいまし 」

太った身体をゆらしつつ彼女は銀のトレイをささげ広い部屋の中を進んでゆく。

私室の奥に設えた寝台には 紗の帳がゆれている。

「 姫さま〜〜 オヤツでございますよ〜〜 ばあやの里から

 届いたイチジクですよ〜  シツレイしまっせ〜〜  」

 

  ことん。 彼女はトレイを置くと 紗の帳を払った。

 

「 姫さまあ〜  ・・・  ??? 

 

     !!  あれ ・・・ !  また! 逃げはった〜 

 

そう・・・・ 豪華な寝台はもぬけの殻 ― たおやかな姫君の姿は なかった。

「 もう〜〜〜!!  今日は絶対に逃がさないように見張っていたのに〜〜

 ああ 〜〜〜 こんなトコにドレスが・・・ 」

寝床の裾には 金襴の飾りが光る紗のドレスが畳んで置いてあった。

「 どこから逃げられたっていうの〜〜  ああ ・・・・! 

窓に駆けよれば レースのカーテンが外されしっかりベッドの柱に縛りつけて

その先は窓の外に ぷ〜らぷら ・・・ 揺れているのだ。

「 ! ここから 降りて行かれたっての???

 もう〜〜〜〜 とんでもないお転婆姫さま だわ〜〜〜 

 婆やさんは 地団太を踏んだが  ― 当家の姫君の姿はもうどこにも見えなかった。

「 今日は 次の舞踏会のドレスについてご相談しなければならないのに〜〜

 エッカーマン伯爵さまのご要望も伺ってあるのに ・・・ 」

はあ ・・・  婆やさんは低いイスに腰を落としてしまった。

「 ・・・ ウチのお姫さまったら も〜〜〜

 ああ このヴェロナの町一番の美女で最高のお家柄のお生まれなのに !

ああ 〜〜  婆やはどこでお育て方を間違えたのでしょう〜〜  」

 

「 乳母や?  姫の意見はどう? 」

衣擦れの音ともに 姫君の部屋のドアが軽やかに開いた。

「 あ・・・ 奥方様〜〜〜 」

「 あら 乳母や、どうしたの?  ・・・ 泣いていたの?? 」

「 これは ・・・ 奥方さま〜〜 不調法を・・・ 」

婆やさんはあわてて顔をエプロンで拭った。

「 どうしたの? 気分でも悪いの? 」

「 いえ ・・・奥方さま。 あのワタクシ自身が不甲斐ありませんで・・・

 本当に申し訳なく ・・・ 」

「 !  また 逃げたのね? 」

当家の女主人は 大きく舌打ちをした。

「 はい ・・・ まことにもってワタクシの手落ちでございまして・・・ 」

「 どうやって逃亡したというの? 

「 はあ ・・・ カーテンをロープ代わりになさって・・・ 」

「 窓から出ていった?? ここは二階なのよ?? 」

「 はあ ・・・ あの ・・ 姫様はこのくらいの高さはなんでもない と 」

「 ・・・ そう ・・・ 乳母や、あなたの責任ではないわ。

 も〜〜 ホントにウチのジャジャ馬娘は! 一日も早く結婚させて大人しくして

 もらわなくちゃ。 」

「 まことにごもっともで・・・ 」

「 テイボルトはどこ?  兄に探しにいってもらいましょう 

 彼なら姫の行きそうな場所を知っているでしょうしね 」

「 ・・・ それが ・・・ ジャンさまは 御友達とご一緒にお出かけで 」

「 もう〜〜〜   仕方ないわ、馬丁頭を呼んでちょうだい。

 彼に探しにいってもらうわ。 」

「 はい かしこまりました 奥方さま 」

婆やさんは えっさほっさ・・・太った身体をゆらしつつ部屋を飛び出していった。

 

 

 

  ザワザワザワ ・・・  ガヤガヤ〜〜〜

 

街中の広場には 多くの屋台やら敷きモノの上の店が出ていて その周辺を

老若男女が ひやかしたり群がったり ・・・ 笑ったりしている。

多くの人々が行き交う中 ― 二人の若い男性がそぞろ歩きをしている。

両名とも容貌も身なりもよく、上流階級の紳士だとみてとれた。

しかも奢り高ぶった風もなく 街角の花売りから花束を買ったり八百屋の親父に

声をかけたり・・・二人は町の喧騒を楽しんでいる。

 

「 うん・・・?  おい ジャン。 誰かお前のことを呼んでるぞ 」

銀髪の若者が 脚をとめた。

「 うん?  ―  あ〜〜〜  ファン〜〜 」

降り返った金髪は声をあげてしまった。

「 ったく!  あのじゃじゃ馬があ〜〜 」

「 ファン?  ああ お前の妹姫かい 

「 うん。 もう〜〜 姫 なんかじゃないよ、アイツは! 」

「 元気な妹姫だな〜と思ってたが ・・・ あれ。 少年の形じゃないか 

「 ― またかよ〜〜 」

「 ジャン兄さま〜〜〜〜あ  」

見た目は 美貌の少年が金の髪を揺らし走ってくる。 

細身の身体が 小鹿のごとくぴんぴんはね跳んでいるのだ。

少年は あっという間に二人の元にやってきた。

 

「 兄さま! やっと追いついたわ  あら ・・・ お友達? 」

「 ファン。 お前またそんな恰好で! どっから持ち出してきた? 

「 兄さまのお古よ〜〜 似合うでしょう? ねえ お友達のかた? 」

少年はくるり、と回ってみせてから 銀髪の青年にむかって軽く会釈をした。

「 あ あ〜 友人のアルベルトだ。アルベルト、俺の あ〜〜〜 妹のファンだ。 」

「 ! い 妹??  ・・・弟 じゃないのか? 」

「 い〜や 妹なんだ 

「 うふふ・・・ フランソワーズ・アルヌールです。 ヨロシク 」

さっと白い手が差し出された。

「 おう 俺はアルベルト・ハインリヒ。 ジャンの親友さ。

 ヨロシク。 フランソワーズ姫。 」

兄の友人は その白い手に口づけをしようとした。

「 わたし、 姫 じゃりあません。  ファンと呼んでください。 

 そして 兄の親友さんとは握手したいです。 」

「 お〜〜 これは気丈な姫・・・ いや 妹君だな。

 よし ファン君。 ヨロシクな。 

友人は 差し出された細い白い手を軽く握った。

「 アルベルトさん。 こちらこそ。 ジャン兄さんをどうぞヨロシクおねがいします 」

がし。 少女はしっかりと握り返してきた。

「 ふふふ  さすがジャンの妹だな。 ただのジャジャウマ娘とは違う。

「 まあ ありがとうございます。 」

「 ファン ・・・ お前、どうやって家を抜け出してきたんだ?

 明日は例の伯爵が来るとかで 母上やばあやたちは大騒ぎをしていただろう 」

「 ええ。 だからそのスキをみて・・ 窓から出てきたの。 」

「 ! 窓・・って。 お前の部屋は二階じゃないか!  」

「 ええ そうよ。 カーテンをベッドに結びつけてね〜 それに掴まって

 降りてきたの。 」

「 ! ったく お前はあ〜〜〜 」

「 ははは・・・ こりゃ筋金入りのじゃじゃ馬姫だなあ〜 」

青年たちは呆れつつも大笑い。

「 うふふ♪ ね お兄さま アルベルトさま どちらへおでかけ?

 よかったらわたしもご一緒させてくださいな。 」

「 あ〜〜 わかったよ  アルベルト いいかい? 」

「 おう 勿論さ。 ジャンの < 弟 > なら大歓迎さ。

 剣の稽古場に案内してあげよう 」

「 まあ! 嬉しい〜〜 実はわたしも少しは使います。 お兄さまに教わったの 」

「 ほう それは頼もしいな。  では行こう 」

「 ああ ・・・ あ〜 俺は帰宅したら母上から大目玉だあ〜〜 」

「 あら 兄さま。 わたしが連れていってって言ったって母上に言うわ。 」

「 ・・・ 頼むよ 

「 ははは 俺も口添えするさ。 ジャンの母上とは顔見知りだしな 

「 頼む、アルベルト 

「 お兄さま〜 アルベルトさま 早く 早くぅ〜〜〜 

エメラルド・グリーンのチュニックに白銀のタイツ、金の髪を惜し気もなくゆらし

フランソワーズ・少年 は 駆けだした。

「 ま たまには付き合ってやるか 

「 ふふん いい兄貴だな、ジャン 

青年たちは苦笑しつつ彼女の後を追った。

 

 

  ざわ ざわ がや がや  わあ わあ 〜〜 くすくすくす ・・・ あははは

 

ヴェロナの街の中心部には 一番賑やかで大きな広場がある。

人々は群れ集い 笑いあい 踊ったり  ― まあ 時には諍いもあったりする。

「 わあ〜〜 賑やかねえ  わたし 初めてきたわ 

< 少年 > は 背伸びをしぴんぴんはねている。

「 そうだな  賑やかだがよからぬヤツも多い。 俺達とはぐれるなよ 」

「 はい ジャン兄さま。  うふふ 兄さまとアルベルトさまが一緒なんですもの

 とっても心強いわ  」

「 ほら 俺達の間にいなさい。 」

「 はい 

さすがのジャジャウマ姫も 兄と友人の間で神妙にしている。

「 ほう? もうイチジクがでているな。  あの屋台にいってみよう。

「 わあ〜〜 フルーツがいっぱい! オレンジに葡萄・・・

 ほんと! イチジク、美味しそう〜〜 」

「 ははは ・・・ 食べ物につられるのは子供の証拠だぞ。 

「 あらァ〜 だってほら あんなにたくさんのヒトが屋台を囲んでいるでしょう?

 皆 フルーツが好きなのよ。 ほら 行ってみましょうよう〜 」

「 はいはい わかったよ 」

「 ふふふ  ん?  ちょっと待て。 」

「 ? どうしたの、アルベルトさま 」

「 ・・・ なにか騒ぎが起こってる。 危ないぞ、こっちにおいで。 」

アルベルトは親友の < 弟 > を 引き留めた。

 

フルーツ満載の屋台の前で 一人の青年が街のゴロツキ共に絡まれていた。

青年は大地色の髪と同じ色の優しい瞳をもち 大層立派な身なりをしている。

彼は きっぱりとした態度で町の不良どもに対峙していた。

「 そんなコトをするのは よくないよ。 ちゃんと代金を払わなくちゃ 」

「 な にぃ????? 」

「 君 今 リンゴをひとつ、屋台から取っただろう? 代金払えよ 」

「 うるせ〜〜 オレ達を誰だと思ってるんだ?  かのエンペラー家の 

「 どこの誰だって関係ないよ。 リンゴの代金を払いたまえ 」

「 こんの〜〜〜 ナマイキな坊やにちょいとオレらの実力を

 みせてやるぜぇ〜〜〜  」

「 なんといってもダメだよ。 代金を 」

「 るせ〜〜〜 」

「 うるさくなんかない。 ルールは守らなければいけない。 」

「 やっちまえっ 

目つきの悪いチンピラが 青年の襟元を締めあげようと手を掛けた。

「 たいへん!  ケンカはダメよっ 」

「 こら ファン! ダメだよ  怪我をするぜ 」

「 お兄さま〜〜 止めないで。 だってあの方が 」

飛び出そうとする妹を ジャン・アルヌールは必死で止めている。

「 ジャン。 俺がゆく 

「 ああ 頼む、アルベルト。 」

「 うむ。  ― ったく!   うん? 」

アルベルトが ずい、と前にでたその時

 

「  ― その手を離せ。 下司野郎! 

 

りん とした声が響き ― 周囲の野次馬たちが ぱっとその方向を振り向いた。

「 聞こえなかったか。 手を引け。 」

すっと 一人の青年が進み出てきた。 

黒のタイツに グレーのチュニック。 マントを軽く纏っている。

スレンダーだが小気味のよい動作だ。

「 ぬあ〜〜に〜〜〜?  坊や もう一回いってみな ! 」

一瞬 息を呑んでいたチンピラたちは たちまち攻勢に出た。

「 !  あの方 女性よ! 」

「 え?? 

「 とてもキレイで スタイルもすっとした方・・・でも 女性だわ。 」

「 えええ?? 」

「 ああ・・・ 若い女性だな。 しかしかなり鍛えた身体のようだな 

「 へええ・・・ アルベルト、お前の眼力はたいしたもんだ 」

「 ふん。 ジャン、お前 どこみてる? 

「 お前こそ〜〜 どこみてるんだ! 」

ジャンとアルベルトも小突き合いつつ 今はとりあえず成り行きを見て居る。

「 ・・・ ステキ! 」

フランソワーズはもう目をきらきら・・・ 俗に言う < めがはあと > な状態だ。

 

「 その手を は な せ。 」

濃い髪は短く、一見細身の青年にしかみえない。

「 しゃらくせ〜〜〜 やっちまえ〜〜〜 」

チンピラたちが 跳びかかった。

「 ・・・ 煩いヤツらだ。  ふん 」

 

  しゅっ   ドカッ !!!  うぐ ・・・!!!

 

彼女?のしなやかな脚が 信じられない高さに上がりチンピラの顎をしたたか

蹴飛ばした。

「 〜〜〜〜 うううう ・・・ 」

「 コイツぅ〜〜〜  

仲間が慌てて加勢しようとしたが。

 

  しゅ しゅ しゅ  ドカッ ドカッ ぐきっ!

 

「 げ〜〜〜 」

「 ぐはあ・・・・ 」

チンピラたちは ことごとく石畳の広場に転がった。

 

「 すげ・・・ あ  」

「 すばらしいわ〜〜〜  おねえさま〜〜〜 」

ジャンの腕をすりぬけ フランソワーズがその人物に駆け寄ったのだ。

「 ? あ  ああ ・・・ 」

「 ステキですね 尊敬します わたし 」

「 ・・・ 下司野郎を許せないだけだ。 チカラ弱いモノを虐めるのは許せない 」

「 ぼく、チカラ弱くなんかないですよ? 

「 あら 」

最初に 締めあげられていた青年が静かに口を開いた。

「 まったく・・・ 君はいつも無茶をするなあ 

「 ふふん  ジョー、君は大人しすぎるんだ。 」

「 そんなことないよ。 あの後 ぼくがアイツらを投げ飛ばそうと思ってたんだよ?

 それを君が 

「 ふふふ 私は気が短いのさ。 」

「 だよね〜 それが君の欠点でもあり魅力でもあるな〜

 さ ウチに来いよ。 母上たちも待っている。 」

「 ありがとう  お邪魔するよ 」

二人は軽く肩を叩きあい 町の人々は拍手をして称賛している。

「 ありがとう ・・・ ったく ああいうダニ連中はなんとかしないとな 

「 うん、 ヴェロナの大公さまに相談してみよう 」

つつつ・・・・っと彼らの前に金髪の少年が駆け寄った。

「 あの 勇気ある御方 どうぞ お名前を ・・・  

わたしは フランソワーズ・アルヌール と申します。 」

「 ・・・ カタリーナ・カルロッティ だ。 」

「 やっぱり レディ の方ですのね 

「 ほう? 見破っていたのかい お嬢さん 

「 あら・・・ わかっちゃいました? 」

「 ああ。 同類はすぐわかる。 お嬢さん お転婆もほどほどに な 」

「 あらあ〜〜〜 わたし カタリーナさまみたいになりたいです

 憧れのお姉さま いえ お兄さま です! 

「 お嬢さん。 さっさと帰って花嫁修業をした方がいい。 」

「 わたし! 剣の練習がしたいんです。 カタリーナさま、教えてください 」

「 だめだ。 大人しく帰りたまえ。 」

「 カタリーナさま〜〜 」

カタリーナは ぱっと踵を返すと、ずっと待っていたジョーに声をかけた。

「 お待たせしたな、ジョー。 さあ 行こう。 」

「 あ ああ ・・・ ごめん、お嬢さん。 また今度 ・・・ 

「 え ・・・  

「 ― あ ? 」

青年と男装の美少女は 初めてきっかりとお互いを見た。

 

      セピアの瞳 と 碧い瞳 が  出会った。

 

    ぼく は 知っている ?  この ひとみ ・・・

 

    わたし は 待ってた ? この温かい まなざし ・・・

 

「 ・・・ !  きみは ・・・ 誰なんだ? 」

「 あなたは ・・・ だあれ。 」

 

    きみ は  ぼくの ひと ・・・

 

    あなた は わたしの 愛 ・・・

 

 

          ぼく・わたし 達は。

 

二人の視線が熱く、そして しっかりと絡み合った。

     

「 ファン! こっちへ来なさい。 帰るぞ 」

「 ジョー。 」

お互いの連れが 彼女を、そして 彼を呼んだ。

 

   ああ ・・・ ジョー というのがあなたの名前なの?

 

   ファン?  フランソワ―ズ だね?

 

今の二人には お互いの姿しか みえない。

 

街の喧騒はもとより それぞれの連れの存在など消え去っている。

 

「 ! アルベルト、すまん。 手伝ってくれるか 」

ジャンはつ・・・っと妹を指した。

「 おう。 早く連れて帰ったほうがいい。 」

「 うむ。 じゃ ― ファン、帰るぞ〜〜〜  

「 さあ 帰ろう。 

「 え・??  きゃ 」

ジャンとアルベルトは  ほう〜〜〜・・・っと突っ立っていた少女を

担ぎあげて足早に広場から出てゆこうとしている。

「 ! あ〜〜〜  下ろしぇ〜〜〜  兄さま〜〜 アルベルトさま〜 」

「  あ・・・ フランソワーズ姫 ・・・! 」

「 ジョー。 行こう。 」

「 え?  あ あ〜〜〜 」

少女と見つめあっていた青年は 黒づくめの友人に引っ張られていった。

 

 

 

  こぽ こぽ こぽ ・・・・  温かい湯気がポットから立ち上る。

 

そして よい香もふわ〜〜ん ・・・と 豪奢な部屋に広がってゆく。

「 はい アルベルトさま お茶をどうぞ? 」

「 恐れ入ります アルヌール夫人 」

「 さあ 美味しいうちにどうぞ。 」

夫人は 白い手で巧みにポットを操りお茶を注ぎつつ艶やかに微笑んだ。

「 母上。 あとは私が淹れます 」

アルベルトの隣に座っていたジャンが腰を浮かした。

「 あら ジャン。 いいのよ、わたくしがやります。 ・・・ ファンは? 」

「 ― いま ばあやにゴシゴシ洗われていますよ。

 ほっんと〜〜に あのお転婆は  

「 もう ねえ・・・ わたくしの手には負えませんよ。

 アルベルトさま 本当に 今日はお転婆姫の相手をしてくださってありがとうございました。 」

「 いやいや ・・・ なかなか魅力的な美少年ぶりでしたよ アルヌール夫人 」

カップを傾けつつ 銀髪の青年は苦笑している。

「 いいえ ・・・ もうお嫁入りを控えた娘にすることじゃありません。 

 あの子は小さな時から 兄と同じことをしたがって・・・ 」

「 そ。 アイツは俺にくっついて 剣も馬術もしっかりモノにしてしまったんだ。

 剣なんか 修練場で一番の腕になったんだから 」

「 ほう? 見てみたいものだな 」

「 とんでもありません。 それでなくても年中 外にでたがって・・・

 白い肌が小麦色に焼け焦げてしまっているんですもの 

「 いやいや アルヌール夫人、 健康的な美人ですよ、フランソワーズ姫は。 」

「 そんな風に言ってくださるのは アルベルトさまだけですわ〜〜

 ウチの姫は このヴェロナの社交界では お転婆ファン で通っていますもの。 」

「 婚約者殿の意見は 」 

「 さあ・・・?  あの方はなんだかよくわかりませんのよ。

 家同士の約束だし 立派な家柄の方ですから 姫を安心してお預けできます。 」

「 ・・・ ファン姫の意見は ? 」

「 あら それはいいんです。 親のわたくし達が選んだ方に嫁ぐのが娘たちの

 一番の幸せですから。 」

「 そんなモンですかね 

「 ええ。  アルベルトさまと婚約者様もお家同士のお約束でしょう? 

「 あ〜 まあ そうですが 

「 母上〜〜 コイツら もう〜〜〜 熱々なんですよ〜〜 」

「 ジャン! 」

兄とその親友が笑って小突きあうのを アルヌール夫人はにこにこ・・・見守っていた。

 

  ぱた ぱた ぱた ・・・・ 軽い足音が聞こえてきた。

 

「 アルベルトさま! お兄さま〜  遅くなってごめんなさ〜〜い 」

鶸色のドレスの裾を絡げて フランソワーズ姫が駆けこんできた。

「 おやおや ・・・ やっと主役のお出ましかな 」

「 ファン。 なんて恰好をしているの〜〜 」

「 お母様。 お茶の時間に遅れてごめんなさい。 」

少女は 裾を直すと優雅に会釈をした。

「 あら ・・・ そうそう それが年頃の娘の作法ですよ。

 アルヌール家の姫に相応しい姿ですよ、フランソワーズ。 」

アルヌール夫人は 満足気に微笑む。

「 ・・・ へえ〜〜〜 ファン。 お前 どういう風に吹きまわしだ??

 さっきまでのジャジャ馬ぶりはどこへ行ったんだ? 」

「 別人のようですな フランソワーズ姫 」

ジャンは 呆れ顔、 アルベルトは笑いを抑えられないらしい。

「 あ あら。 だって ・・・ 優雅でお淑やかな娘の方が ・・・

 そのぅ〜〜〜 ・・・ 立派な殿方には ・・・ 」

「 ??? それは ・・・ そうかもしれない が 」

「 あ〜〜 人による かもなあ。  ジャジャウマ娘が好みなヤツもいる。 」

「 あ あら?? そうなの?? ・・・ ジョー様は どうかしら・・・ 」

「 え? なんだって? 」

「 え なんでもないわ。 そう ・・・ ねえ ・・・ よく考えてみるわ 」

「 さあさ。 お茶にしましょう。 インドから送らせたお茶ですのよ 

 そろそろベリー・パイも焼き上がります。 

「 まあ パイ?  お母様のパイ〜〜 大好き♪ 」

「 ふふふ ・・・ ファンはやっぱり子供だなあ 」

「 あら! もう立派なオトナですわ。 」

「 そうねえ  伯爵さまの奥様になるのですものね。 」

母は ますます嬉しそうだ。

「 え ・・・? 」

「 先日 言いましたよ?  明日、婚約者の伯爵さまがいらっしゃいます。 」

「 ふぃ ふぃあんせ ・・・?  誰の ですか 」

「 まあ ファン。 貴女の、ですよ 」

 

     え ・・・?

 

 カチ − − − ン ・・・ 姫君の手から銀のスプーンが落ちた。

 

 

 

Last updated : 01,03,2017.              index        /       next

 

 

 

***********   途中ですが

え〜〜 コゼロ未見の方、 ごめんなさい〜〜〜

元ネタは アレです。 でも 結末は???